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2013/09/09 (Mon) 風、立ちぬ(おまけ)

おまけです。
これでどうにかミハアル補完になったかな。
実は元々これを書きたくてのパラレルでした。
ちなみに元ネタは実際のエピソードからいただいています。
映画『風●ちぬ』の登場人物、本○氏のモデルとなった実在の人物某氏は、実は『第一回鳥人間コンテスト』の優勝機の設計者でもあるのだそうです。
このエピソードがとても面白くて可愛くて(プロが本気出して何やってんのー!っていう)、こんなんなりました。

ではでは、そんな前提をお含み頂いた上で続きからどうぞ。
ミハ30代半ば、姫20代半ばのイメージです。




「んだよ、この分からず屋っ!」

聞き覚えのある声に、ルカは思わず足を止めた。
ガレージへと続く道の先を見やれば、視界をよぎるのはほっそりとした人影だ。
すらりと長い足で走り去っていくその背では、束ねた髪が生き物のように揺れている。
その美しく揺れる髪の躍動感は、まるで彼自身の好奇心や利かん気を表しているようで、ルカは思わず笑ってしまう。
走り去る人物のことを、ルカはよく知っている。
無邪気で、無鉄砲で、若さゆえの考えなしのくせに、妙に頑固で生真面目な彼のことを。

「またやってる。あの二人、何回同じことで揉めたら気がすむんだ?」

ひとりごち、ルカは真っ直ぐにガレージへと向かう。
少しばかり古びたガレージは、しかし今のルカにとっては夢の国だ。
子供時代の秘密基地にも等しいそこは、きっと今中にいる彼にとっても同じはず。
夏らしく生き生きと延び放題の雑草に足元を邪魔されながらたどり着けば、そこにはルカの予想通り、不機嫌そうな顔の男が一人金髪をかきむしっていた。

「またケンカしたんですか、ミシェル先輩。そんなんじゃ、アルト君に愛想つかされますよ」
「・・・ルカ、お前、顔が笑ってるっつうの」

からかいまじりに声をかければ、金髪の男、ミハエルは、端正な顔をしかめてルカを見上げる。
せっかくの澄んだ碧眼、嫌みなくらいの男前が、そうしていればまるで子供だ。
ルカはますます笑いを堪えきれず、いまだに『可愛い』と称される童顔を派手に緩ませた。

「なんです、その顔!まったく先輩ってば、ほんっとにアルト君が絡むと人が変わりますよね」
「・・・うるせえ。放っとけ」
「いいじゃないですか、パイロットくらい。あれだけ熱心なんだし、やらせてあげればいいでしょう?」
「馬鹿お前、気楽なこと言いやがって・・・!」

声を荒げるミハエルに、ルカはますます笑ってしまう。
いつだってクールな男振りのこの敬愛すべき先輩、天才設計士のミハエル・ブランがここまで慌てる姿など、こんな時でしか見られはしない。
そう、彼にとっての唯一の例外、早乙女アルト青年に絡んだ時以外は。

「湖に突っ込むんだぞ、湖に!何かあったらどうするつもりだ!?」
「泳ぎは得意だって本人が言ってましたよ。言うだけあって、身体能力も高いんですし」
「それにしたって、万が一ってこともあるだろう?いくら丈夫になったからって、いきなりそんな無茶させられるか!」
「過保護ですよ、ミシェル先輩。だからアルト君に嫌がられるのに」

思わず漏れたルカの苦言は、幸いにも、ミハエルの耳には届かなかったらしい。
仏頂面のまま、ミハエルは再び機体の下に潜り込んだのだ。
飛行機というにはずいぶん小型の、人一人乗り込むのがやっとの小さな機体は、極めてシンプルな造りをしている。
それもそのはず、これは人力飛行機のみの競技会に出場予定の、ミハエルがたった一人で作り上げた飛行機なのだ。

「人力飛行機大会なんて、のどかですよねえ。こんな時代が来るなんて、少し前までは考えられなかったな」

小さなガレージにおさまった機体を眺め、ルカは思わずそう呟く。
悲惨としか言い様のなかった戦争が終わって早十年、その傷跡はいまだに各所に残るものの、人々は逞しく新たな時代に踏み出している。
人力飛行機大会の開催などと、はじめて聞いた時にはルカは思わず耳を疑ったほどだったが、そんなお遊びにミハエルが出場すると聞いた時にはますます驚いた。
プロの設計士、戦時中には数々の戦闘機を作り上げた男が素人参加の大会にエントリーするなど、酔狂にもほどがある。
だが当のミハエルは見たこともないくらいに生き生きとした顔をして、その側には一回りも若い青年、アルトの姿もあった。
二人して和気あいあいと、まるで他愛ない遊びに興じる学生のようなその姿は、時おり訪ねるルカの微笑みを誘うほどにほのぼのとした景色だったのだが。

「だいたいお前が悪いんだ、ルカ!お前がさっさとパイロット役を受ければアルトだってこうまでしつこく粘りやしなかったのに!」
「人のせいにしないで下さいよ、先輩。僕が受けるも受けないも、アルト君滅茶苦茶やりたがってたじゃないですか。二人のケンカに僕を巻き込まないで下さいよ」
「そ、それは仕方ないだろう、俺よりお前の方が軽いんだから。今回は何より軽量化が必須なんだ、それにお前なら機体の仕組みもよく分かってるし」
「体重の軽さも機体の把握も、どっちもアルト君はクリアしてると思いますけどね?あんなにやりたがってるんだから、やらせてあげればいいじゃないですか」

いままでに、数えきれないほど繰り返した会話だ。
ルカの呆れ混じりの声に、ミハエルはしばしの沈黙の後、歯切れの悪い言葉を返す。
その大きな体はやはり、手製の飛行機の下に潜ったままで。

「・・・お前は、知らないからそんなことが言えるんだ。昔のアルトは、そりゃあ・・・」
「体が弱かった、ですか?もう何度も聞きましたよ。でもそれも昔の話でしょう、今はお医者もお墨付きの健康体らしいじゃないですか」
「だ・・・だからってそれがぶり返さない保証はないじゃないか?!飛行機が湖に突っ込んで、風邪を引かない保証がどこにある?それをこじらせて肺炎にでもなったら、誰が責任とるって言うんだ?!」
「・・・うわあ、ほんっと、過保護・・・」

もはや隠しようもないため息をつくルカに、ミハエルもまたムキになる。
なにしろミハエルの脳裏にはいまだに十数年前の幼いアルト、母譲りの病弱で青白い顔のアルトが刻まれているのだ。
いくら時が経ちアルトも健康になったとはいえ、あの頃の記憶が失われるものではない。
ミハエルにとって、アルトはいまだ幼く儚くいたいけな、守るべき存在なのだ。
もっとも、その壊れ物のような扱いこそがアルトを苛立たせる原因だということは、当のミハエルはいまいち理解出来ていないようなのだが。

「アルト君ももう大人なんですよ、ミシェル先輩。そんなんじゃほんとに嫌われちゃいますよー」
「うるせえ、ルカ!いいからお前がパイロットになれ、そうすりゃ万事丸く治まる!」
「嫌ですよ、僕まだアルト君に嫌われたくないですもん」
「ぐっ・・・ル、ルカお前・・・!」

裏切り者だとか卑怯者だとか、ミハエルの恨み節は今さらだ。
聞き慣れた罵倒を華麗に聞き流し、ルカは上機嫌で目の前の機体を眺める。
子供のお遊びのようなこの飛行機は、だが、だからこそ無邪気に愛おしい。
ミハエルとアルトという、いつまでも飛行機に夢中な子供二人の、宝物のような機体なのだ。

「・・・だから、やっぱりアルト君が乗るのが相応しいんですよ。いい加減に覚悟決めて下さい、ミシェル先輩」
「い・や・だ!アルトにかすり傷ひとつでもつけたら、俺は美与さんに顔向け出来ない!」
「うわあ。その言い分、僕でもちょっと引きますよ?」

ぎゃあぎゃあと果てしない掛け合いは、しびれを切らしたアルトが戻ってきてもなお続いた。
アルトの肩を持つルカにミハエルがひどく腹を立て、子供じみた怒りを隠す気もない三十過ぎの大の男に、二人が揃って呆れたのは言うまでもない。
しかし結局、最後の最後には。

「湖に突っ込む、突っ込むって言うけど、要は着水の仕方が心配なんだろう?それなら、ミシェルがきれいに着水する機体に仕上げればいい話じゃないか」
「・・・アルト、お前、難しいことを気軽に言ってくれるじゃないか。いいか、それがどれだけ難しいかってことは、」
「出来ないのか?俺、ミシェルならそれくらい出来るって信じてるのに」
「・・・っ、も、もちろん、俺にかかればそのくらい・・・っ!」

そしてその後開催された第一回大会では、見事ミハエル・ブラン設計機が優勝に輝いたとか、なんとか。
その安定した飛行の鮮やかさだけではなく、優勝パイロットの姿もまた見物人がどよめくほどの麗しさだったということ、優勝カップの授与時には設計者とパイロットの二人が抱き合って喜んだこと、それが翌日の地方紙にまで載ったことなども。


今となっては、遠い昔の話である。


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