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2013/07/27 (Sat) オトナノサプライズ

姫誕です。
なんとか当日間に合ってよかった・・・途中ちょっと諦めましたが、人間、足掻くことも必要ですね。
ちなみに文中の天女な姫の版画(お値段十万弱)については、リアルにそういうのが売り出されたと聞いて、お値段にびっくりしつつも「でも眼鏡なら速攻買うんだろうなあ」と思ったのでした。

姫誕なのに姫がいない話になってしまいましたが、何でもOKという方は続きからどうぞ。
ちょっといつもとは違う雰囲気になったかなーと思いますが、さて、いかがでしょう。




あれは12か、13の時だっただろうか。
当時まだ中学生だったミハエルは、学生服が似合わないことこの上ないない場所に一人突入し、柄にもなく緊張していた。
右を見ても大人、左を見ても大人だ。
すでにSMSに入隊し、大人社会で暮らし始めていたとはいえ、体育会系の悪戯小僧がそのまま成人した連中の集団のようなSMSと、ダークなスーツ姿の綺麗なお姉さま方が居並んだこことでは、雰囲気が違うにもほどがある。
だがいくら居心地が悪いと思ったところで、ミハエルはもう引き返せない。
なにしろもう来てしまったのだし、それに、『あれ』を見てしまったのだ。

(・・・あれ、欲しいなあ)

場違いだと、自分でも分かっている。
不審な顔で周りから見られているのも、薄々勘づいてはいる。
何しろ、ここはギャラリー。
文化的な趣味とはほど遠い生活を送るミハエルにとっては、生まれて初めて入った場所だ。
周りを見回せば、驚くような値札のついた品がいくらも展示されているが、ミハエルの目当てはただ一つ。
某有名カメラマンの写真を元に、版画におこしたというパネル。
タイトルは、ずばり『天女』。
そしてそのモデルとなった人物は、言うまでもなく、天才女形の早乙女アルトだ。

(きれいだなあ。欲しいなあ)

舞台衣装をまとうアルトは、タイトルが示す通りの天女の姿だ。
東洋の美術に詳しくないミハエルが見ても人ならぬ存在なのだろうと分かるほどの、神聖な美しさ。
まだいくらか幼さを残したその顔は、しかし完璧なほどに整って、まさにこの世ならぬ美しさを見せつけていた。
その伏し目がちな瞳のせいか、天女が何を考えているのかは分からない。
だがミステリアスなその表情が、見る者に強烈なインパクトを残す。
その端正な顔が憂いて見えるのは何故なのか、しかし、その憂い顔がどこか色っぽいのも本当だ。
自分と同い年の少年が見せる、何ともミステリアスで妖艶な色気の漂うその一枚のパネルの前で、ミハエルはずっと立ち止まっていた。
まさしく、魅入られたと言えるほどに。

(限定販売、プレミアムナンバー付きか。・・・いいな、欲しいな)

誰かにつれてこられた子供が、退屈しているとでも思われているのだろう。
突っ立ったミハエルに話しかけてくる大人はおらず、ミハエルは大いにその一枚を鑑賞することが出来た。
パネルの下には、すでに売約済みの赤札が何枚もかけられており、数量限定販売のそれが着々と在庫数を減らしていることを物語っている。
そしてそれが、ミハエルに決意させる決め手にもなった。
悩んでいる暇はない。
こうしている間にも、天女は次々と他の誰かの手に渡っているのだ。
悠長に悩んでいる間に、最後の一人まで飛びたってしまうとも限らない。

(よし、買おう。あの天女を俺のものにするんだ)

中学生といえども、伊達にSMSに所属しているわけではない。
それなりに仕事もしていれば、みあうだけの収入もある。
大して贅沢をするわけでもないミハエルが、今使わないでいつ使うのだ。
大きく息を吸い込んで、ミハエルはついに思いきった。

これを下さい。
欲しいんです。

・・・しかし、それから先が大変だった。

「だからあ、お金ならあるんですって」
「しかしお客様、未成年の方は保護者の同意を・・・失礼ですが、年齢は?ご自宅には、今どなたかいらっしゃいますか?」
「なんでそんなことを聞く必要が?自分の金で買うのに、どうして保護者の許可なんて」
「仰る通りではございますが、このご時世いろいろ厳しくて。ではお客様、こちらの書面に、お名前と送り先、それから保護者の方のお名前と勤め先と、それから・・・」

中学生のミハエルが大金を持っているのが不審だったのだろう、ギャラリー側は保護者の許可が必要だと言い張った。
自分で稼いだ金なのにとそれを理不尽に思うミハエルだったが、SMSの事情を馬鹿正直に話すわけにもいかない。
とはいえもちろん天女を諦めるわけがないミハエルは、しぶしぶ保護者の許可を得ることに納得した。
しかし、そこからがまた大問題だ。
両親と姉とを亡くしたミハエルは天涯孤独、宇宙にたった一人の身の上だ。
保護者だの何だのと言われたところで、いないものはどうしようもない。
さてどうするかと考えるミハエルの頭に浮かんだのは、結局のところ、親というか兄というか・・・とにかく一応はそんなポジションにいる『彼』だったのだが。

「十万だあ?たかだかポスターに十万も払うってのか?やめとけ、ミシェル!もったいねえ!」
「だーかーら、ポスターじゃないんだって、隊長!版画だって、限定販売なんだって!」
「にしたって、なんでそんなもんに大金を・・・おい、お前まさか担がれてんじゃねえだろうな。詐欺商売じゃないのかよ、大丈夫か?っつうか、そもそもなんでそんなもんが欲しいんだよ。それほどの値打ちもんなのか?ああ、それともあれか、将来値が上がることを見込んでやがるとかか?止めとけよ、素人が手を出すジャンルじゃねえぞ、そんなもん」
「全っ然違うから、いいから同意書にサインだけしてくれよ隊長・・・っ!」

こうしてようやく芸術音痴のオズマを口説き落とし、ミハエルはやっとの思いで天女の版画を手に入れた。
しかしそこでようやく気付いたことには、宿舎の狭い狭い個室では、そんな版画を飾る場所がなかった。
当時はまだ年の近い上官と相部屋だったミハエルの二段ベッドの中だけのスペースには、とてもそんなものを飾る余裕はなかったのだ。

(あーあ、せっかく苦労して買ったのに。飾る場所まで考えてなかったなあ)

残念なことは残念だったが、悩んだところで仕方はない。
ミハエルは天女をロッカーに仕舞いこみ、誰もいない時にだけ取り出して眺めることにした。
それはそれで悪くはなかった。
なんだかまるで、天女と二人きりの秘密の逢瀬をしている気分でもあったのだ。


そしてその逢瀬は、しばらくの間、ミハエルの密かな楽しみとなる。
しかし数年後、ミハエルのその習慣は、中止を余儀なくされることになった。
それは紛れもなく、その『天女』である本人、早乙女アルトがミハエルのルームメイトとなったからである。


**********


「・・・ということで、これがその天女姫の版画だ」

どどん、と効果音さえつけそうな勢いでミハエルが取り出したアルトの天女姿の版画パネルに、シェリルは素早く前のめりになって食いつき、ランカは爛々と目を輝かせ、ナナセは美術家の顔になって感嘆のため息を漏らし、そしてルカは一人呆れた顔つきで、版画よりもそれを両手で抱えた眼鏡男のにやけ面をちらりと眺めた。

「・・・そんな自慢なんかして、アルト先輩にバレても知りませんよ」
「お前が言わなきゃバレないだろ。それにいいじゃないかよ、このくらい。嫁自慢くらいさせてくれよって」
「全くもう。アルト先輩に知れたら、ただじゃ済まないと思いますけどね」

ルカの忠告などどこ吹く風で、版画を抱えたミハエルはすっかり自慢顔だ。
宿舎を出て以来2人で暮らしているミハエルとアルトの愛の巣、とあるマンションのリビングのど真ん中に、ミハエルの愛しの天女が堂々と鎮座ましましている。
それを眺めるシェリルとランカが一様に羨ましそうな目をするのにニヤニヤと笑って、ミハエルは意地の悪いことを言って楽しんでいるのだ。

「いいだろ、綺麗だろ?当時速攻で完売しちまって、ファンの間でも幻って言われてるお宝なんだ。プレミアがついて、前にオークションに出た時には倍以上の値がついたとか言うぜ。まあ、俺は絶対手放す気はないけどな」

自慢したいだけ自慢しまくっているミハエルに、女性陣はすっかり冷たい眼差しだ。
しかしそれでも、ランカはともかくシェリルまでがこの場から去ろうともせず、のろけまくりのミハエルに辟易しながらも面白がっている理由は、一つしかない。
皆はただ、この家の主の帰りを待っているのだ。
でれでれとやに下がった金髪眼鏡ではない、天女の方の主の帰宅を。

「ミシェル君のアルト君コレクションって、何だかすごそう。ねえ、他には何かないの?」
「もちらん、ランカちゃん。山ほどあるぜ、何が見たい?俺のお勧めは、引退直前に発売された写真集なんだけど」
「そんなの、私だって持ってるわよ。もっと珍しいのはないのかって話よ」
「なんだよ、難しいことを言うな、シェリル。それじゃあ秘蔵のテレビ出演記録でも見せようか?こいつはレアだぜ、子供姫のプライベート映像なんて垂涎ものだ」

それこそアルトが聞けば憤死しそうなことを言いながら、ミハエルはひどく楽しげだ。
いかにもうきうきとしたその横顔は、ルカが知るかつての『航宙科の頼れるリーダー』でも『空とベッドの撃墜王』とも違う。
どこか子供っぽいその横顔に、眺めるルカは思わず少し笑ってしまう。

(変なの。今のミシェル先輩、昔よりずっと子供みたいだ)

かつてのミハエルは、むしろ早く大人になろうとしていた。
大人を演じようとして大人のふりをして、生来の器用さのせいか、まんまとそれを身につけたようでさえあった。
その化けの皮がはがれてきたのは、いつだっただろう。
間違いない、それは件の『天女』がミハエルの元にやって来て以来のことだ。

(人って、変わるものなんだなあ。恋が人を変えたってやつかな)

ルカからすれば少しばかり変わりすぎな気がしないでもないが、しかしそれはおかしくも微笑ましくもある。
今日のことだって、そうだ。
きっと以前のミハエルなら、こんなサプライズパーティーなどやりはしなかった。
アルトのためと言いながら、こんな風に皆が集まるのを誰より楽しんでいるところがある。
それはなんだかとても子供っぽくて、だけどそれが昔のミハエルを知るルカにしてみれば、なんだかとても嬉しいことでもあるのだ。

「・・・っと、ちょっと待って。姫からメールだ」

子供時代のアルトの記録映像というお宝に目の色が変わったシェリルとランカを待機させ、ミハエルは慌てて携帯電話を拾い上げた。
そしてそれを開くなり、端整な男前の顔がみるみるうちに緩んでくる。
言われなくても、相手はアルトなのだと誰しもが悟ってしまうくらいの緩み様で。

「ごめん、ごめん。姫がもうそろそろ帰ってくるって。お宝映像はまた次の機会にな、2人とも」
「なによ、それ!もったいぶってー・・・って、まあ、今日ばかりは仕方ないわね。勘弁してやるわよ」
「アルト君を怒らせるわけにはいかないもんね。でも絶対今度見せてよね、ミシェル君!」
「もちろんだよ、お2人さん。さあ、それじゃパーティーの用意をしようか。アルト姫をうんと驚かせてやらなきゃな。ほらナナセも、ルカも、ぼさっとしてんなよ」

今年の7月27日は土曜日だ。
休日の誕生日だなんて幸せだ、朝から晩まで2人きりだ。
どこかの高級ホテルで丸一日ロマンチックに浸ってもいいし、いっそ自宅から一歩も出ないのでもいい。
いやむしろ寝室から、ベッドから一歩も出ないのだっていいんじゃないか・・・たとえそんなことになったって、お姫様を退屈させない自信は当然ミハエルにはあったのだが・・・一人でそんなことを考えている間、ミハエルは大層夢心地だった。
もちろん、アルトが望むのならどこかに遊びに行ったっていい。
でも出来れば、二人きりでしっぽりと大人の誕生日を過ごしたいのがミハエルの本音だったのだ。
練りに練ったプランは数パターン、とびっきりのホテルのスイートを押さえる用意だってしていたミハエルだったのに。
・・・それを全部覆したのは、もちろん張本人であるお姫様その人で。

『悪ィ、ミシェル。その日は仕事だ』

わざわざ好んで休日出勤をしたがる、そんなワーカホリックな一面もまた、ミハエルの愛しい恋人の顔でもあった。
そしてお姫様の一言で全ての計画が泡と化したミハエルは、がっかりと肩を落としながら、新たな計画をひねり出したのだ。
旧友たちを自宅に集めての、サプライズパーティー。
普段ロマンチックでベッタベタな演出好きのミハエルがそんなことを催すとは、アルトは夢にも思わないだろう。
そもそも、ミハエルは2人の空間に他人が入ることをあまり好まない。
ことアルトに関する限り、驚くほどに心の狭い男なのだ。
・・・だが、たまにはこんな機会があってもいいだろう。
なにしろ、お姫様の誕生日なのだから。

「結果オーライかな。たまにはいいだろ、こんなのも」
「そうですね、ミシェル先輩の起案としては至って健全です。びっくりするくらい」
「随分トゲのある言い方をするな、ルカ?お前、今日の役割分かってんだろうな?」
「・・・分かってますよ。分かってるから、こんな言い方するんじゃないですか」

実は、外せないゲストとして招かれたルカには、とびっきりの任務が言い渡されているのだ。
それは深夜零時、日付が変わる前には、盛り上がっているだろう歌姫2人(と、ナナセ)を連れてこの家をお暇するというもので・・・つまりは、ミハエルとアルトとの甘い夜を邪魔するなよという、なんとも責任重大な任務なわけで。

「今日限りにして下さいよね。僕、シェリルさんとランカさんを止めきれる自信はそうそうないですよ」
「大丈夫だろ、ナナセもいるし。ナナセの前で男を見せる機会だぜ、ルカ君!」
「もうっ、そういう言い方止めてくださいってばー!」

そうこうしているうちに、パーティーの準備は万端だ。
シェリルご贔屓のシェフによる特注デリバリーで料理は完璧。
部屋だって、ミハエルが朝から掃除をした。
飲み物はルカが車で運び入れて、それからランカとナナセが2人で選んだ花束を飾れば、即席パーティー会場としては上々だろう。
あとはただ、今夜の主役の登場を待つばかりで。

「さて、お姫様はどんな顔で驚いてくれるのかな」

驚いて、それから、恥ずかしそうに喜んでくれるんだろう。
目に浮かぶようなその表情に、ミハエルもまた、知らず口元を緩めてしまうのだった。


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