FC2ブログ
--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2013/06/17 (Mon) オトナノオモワク

「女の子が恋人に手料理を振舞うことに喜びを見出すのは、その恋人の体を自分が作っているのだと実感できるかららしい」

みたいなことを耳にしまして、もぞもぞ考えていたらこんなんなりました。
なんとなくぼんやりしたオチになった気がしますが、ではでは、続きからどうぞ。




「それはあんまり甘えすぎじゃないですか、ミシェル先輩」

呆れたような後輩の声に、ミハエルは不思議そうに顔を上げた。
何がだよと言い返すその口の中には、行儀が悪くも、ほどよく甘いかぼちゃのコロッケが入ったままで。

「何がって、全部ですよ、全部。そもそも家事全般アルト先輩がやってるんでしょう?あまつさえ、そんなお弁当まで」
「ああ、そうだ。あの家事スキルはさすがだぜ、我ながら出来た嫁をもらったもんだと」
「何の自慢ですか、何の!僕はのろけを聞きたいわけじゃありません!」

にわかに『俺の嫁自慢』を始めかけたミハエルをぶった斬り、ルカは成人した今でも学生に間違われる幼顔をしかめてみせた。
と同時に、あたりをはばかるように大きな瞳でぐるりと見回す。
昼時の食堂は騒がしいとはいえ、SMSの連中は往々にして抜け目がないのだ。
どこで誰が聞き耳を立てているとも知れず、ルカはことさらに声をひそめた。
とはいえ、それは別に今目の前でのんきに野菜の煮浸しを咀嚼しているスナイパーのためではない。
ルカが配慮しているのは、ただ、敬愛するもう一人の先輩のプライバシーのためだけだ。

「アルト先輩だって忙しいはずなのに、炊事洗濯、掃除だって全部任せきりなんて不平等ですよ。おまけにお弁当まで作ってもらうなんて、わがままが過ぎやしませんか」
「なんだよ、ルカ。さてはお前も姫の弁当が欲しいのか?」

先程からミハエルが食べているのは、正真正銘の愛妻弁当・・・と言えばアルトは嫌がるだろうが、端から見ればそれ以外の何者ものでもない・・・だ。
しかも、手作り弁当と呼ぶにはちょっとばかり豪華な出来映えの。
ミハエルの腹を満たすだけの相当量に、目の肥えたルカが感心するほどの彩りに配膳、何よりその味が確かなことは、一度でもアルトの手料理を味わったものなら誰もがよく知っている。
アルトファン垂涎の、そうでなくても一口味見をしてみたいと思わせるその弁当をやらないぞとかばってみせながら、ミハエルはニヤニヤと笑う。
どうだ、羨ましいだろう!と言わんばかりのその顔は、せっかくの色男が台無しだ。
年甲斐のないその表情にルカが大きなため息を吐くと、ミハエルはからからと明るく笑った。

「冗談を真に受けるなよ。この弁当は、たまたま姫が自分の分を作るついでで作ってくれただけだ。別に無理にねだったわけじゃない」
「・・・そうですか。それなら少しは安心ですけど、家事をアルト先輩に任せきりなのは事実ですよね?前から疑問だったんですが、少しは手伝おうと思わないんですか?アルト先輩の負担は考えないんですか?そのうち捨てられるかもとか思わないんですかっ?」
「おいおい、人んちのプライベートに口を出す気かよ。ったく、お前は昔から姫贔屓がすぎるぜ」

この世の誰よりもアルト贔屓が過ぎるだろう張本人はそう言って、困ったように金の頭をかきむしった。
何と言ったらいいのかと、言葉を探すように選びながら。

「俺が手伝った方が姫の負担になるんだよ。姫には姫のやり方かあるらしくてな」
「そんなの・・・ミシェル先輩だって、人並みには家事をやれるでしょう?料理は無理でも、掃除くらいは」
「おいおい、あのお姫様が『人並み』で満足するタマかっての。姫に言わせりゃ『四角い部屋に丸く掃除機をかける男』らしいぞ、俺は。俺だって他の男どもよりはマメなつもりだったんだけどな」

肩をすくめるミハエルに、ルカは不承不承に頷いた。
確かに、アルトの家事能力は驚嘆すべきものだ。
何度も二人の同居宅(ミハエルいわく『愛の巣』だ)を訪ねたことのあるルカは、もちろんそれくらいのことは知っている。
だからこそ、アルトがその能力の高さゆえにミハエルの中途半端な手伝いを必要としないというのも頷ける話ではあった。
何事にも完璧主義のきらいのあるアルトは、全部自分でやってしまいたいのだろう。
それはそれで、本人たちが納得しているのならば他人が口を出す問題ではないのだろうが。

「・・・だけどやっぱり、そこまでおんぶに抱っこなのもどうかと思います。ミシェル先輩、そんなんじゃ、アルト先輩がいなくちゃ生きていけなくなりかねませんよ。どうするんです、そうなっちゃったら」

半ば本気で心配になり、ルカは真面目にそう言った。
あまりにもアルトに依存しているミハエルの身と心とを、真摯に心配してしまったというのに、当の本人ときたら。

「そう、それそれ。俺が狙ってるのは、まさにそれなんだって」
「・・・はあ?」

突如満面の笑みを浮かべたミハエルに、ルカはきょとんと首を傾げる。
意味がわからないと問い返すより早く、ミハエルが後を続けて話すことには。

「なんだかんだ言って、アルト姫は優しいだろう。俺が姫なしじゃ生きていけなくなっちまったら、姫はもう絶対俺のことを見捨てたり出来ないはずだ。一蓮托生、死ぬまで面倒見てもらわないとな」

衣食住の何もかも、アルトがいなければ立ち行かなくなってしまえばいいのだ。
そうすれば、あの責任感溢れるお姫様は、とてもミハエルを一人には出来ないだろう。
心配で、放っておけなくて、いつも気に留めていればいい。
それこそが、ミハエルの本当の狙いなのだ。
同情でも義務感でも義理でも何でもいいのだ、アルトを自分に縛り付けていられるのなら。
もっとも、それが愛なら一番いいのだけれど。
何があっても、どう足掻いても、アルトが決して自分から離れないように、と。

「・・・それって何だかズルくないですか。おまけに暗いし、性格悪いです、ミシェル先輩!」
「ふん、何とでも言え。こういうのはやったもん勝ちなんだよ!」

なんとも晴れやかな笑顔のミハエルに、ルカは今度こそ隠す気のないため息を深々と吐き出すのだった。


*****


さすがに、そんなことはアルトには言えない。
直接的には言い出せないものの、それでもやっぱりどうにかしてミハエルの思惑を伝えたいと思うのは、ルカがアルトを慕っているからだ。
高校時代からのアルトの努力と一途な性格、のみならずその稀有な才能も全て含めて、ルカはアルトを先輩として慕い、なついてきたのだ。

「家のこと?ああ、確かに家事は全部俺だが・・・それがどうかしたか」

今日のルカはSMS隊員ではなく、LAIの技術部主任として新統合軍を訪れていた。
久しぶりにアルトと話す機会を得たルカは、特にストレスもなさそうなその姿にほっと胸を撫で下ろした。
しかし、安心するのはまだ早い。
ミハエルがアルトの優しさにつけこんでいることを教えてやらねばと、ルカは妙な義務感に駆られていた。
アルトというのは、そういう妙な庇護欲をそそるところがあるタイプなのだ。

「だって先輩も忙しいのに・・・家事全部丸投げなんて、ダメな夫の見本じゃないですか。もっとこき使ってやったらいいんですよ」
「そうは言っても、自分でやる方がはるかに早くて効率的だしな。あいつに掃除をやらせると、隅が甘いんだ。要領だけはいいくせに」

そう言うアルトはごく平然として、本当に家事を負担には思っていないらしい。
それに二人分の家事くらい、実家にいたころよりは随分楽だと言われてしまえば、ルカには返す言葉もなかった。
それはそうだ、この強く美しいフロンティアの英雄は、幼少時より徹底した花嫁修行の英才教育を受けてきたというのだから。

(・・・もしかして、僕はものすごく野暮なことをしてるんだろうか)

なんだかひどく馬鹿馬鹿しいことをしている気がして、ルカは力のない笑いを浮かべる。
新統合軍の顔として、フロンティアの英雄として、アルトの多忙は察するにあまりある。
それに加えてミハエルとの生活の全てを担っているなんてと、ルカは一人で憤っていたのだが・・・結局は、それも全てルカの空回りだったということか。
だって、目の前のアルトはこれっぽっちも嫌な顔をしていないのだから。

(アルト先輩が嫌じゃないんだったら、まあ、いいか)

ミハエルが聞けば「そら見ろ」と言いそうなことを、今更ながらに思い知ってしまった。
家事自体も、ミハエルの世話をやくことも、アルトは全く嫌ではない・・・どころか、好きでやっているのだろう。
端から見た不公平感がどうであれ、現状こそが本人たちにとってのベストバランスなのかもしれない。
いくら家事に長けているからといって、アルトのこのいっそかいがいしいほどのミハエルへの世話焼きぶりは・・・もしかしたら、この麗しい先輩は、ルカが思うよりずっとミハエルを憎からず思っているのだろうか。
首を傾げつつ、ルカがそんなことを思っていると。

「ああ、そうだ。ルカお前、最近ミシェルの体が絞まってきたと思わないか?」
「ええ?なんです、急に。特別変わったようには見えませんけど・・・でも、そう言われればそんな気もするような」
「そうだろう。今じゃあいつの食生活、俺が握ってるからな。三食全部俺の飯で」

弁当もそのためなんだと告げられて、ルカはきょとんと首を傾げた。
おかしい。
ミハエルの言い分では、弁当はただのついでではなかったか?
ルカの怪訝な顔にも気付かずに、アルトがさらに後を続けたことには。

「あいつの体、悪くないだろう。細くもないが、余計な筋肉がつきすぎてるわけでもないし」
「・・・ミシェル先輩、ですか?まあ、確かによく鍛えられてますよね」
「鍛えただけでああなるもんでもないだろう。俺やお前が同じトレーニングをしたところで、あんな風にはならない。そうだろ?」
「はあ、そうですね」
「体質だな、あれは。それが最近少したるんでるように見えたから、弁当を持たせてみたんだ。いつまでも10代の頃と同じ食生活じゃ、あっという間にツケが回るからな。あいつ、放っとくと肉ばかり食うだろ」
「・・・先輩、それでわざわざお弁当を?」
「ああ。おかげで腰回りが絞まってきたろう。この前の健康診断の結果も良好だったし、弁当の甲斐はあったみたいだな」

満足そうに微笑んで、アルトはごく小さく呟いた。
ルカに聞こえるか聞こえないかのそれは、きっとほとんど独り言のようなものだったのだろうが。

「つまりあの体は、俺の飯で出来てるんだ」

そしてそれは悪い気分ではないのだと嬉しそうに呟くアルトに、ルカは返す言葉もなかった。
だって、それは、それじゃあ、まるで。

(これって、僕、のろけられてるのかな。のろけられてるよね、確実に)

ミハエルの体は悪くないだろうと、それはアルトにとっては最上級の褒め言葉だ。
そしてそれを作っているのは自分なのだと言うアルトの横顔は、嬉しそうで自慢気で・・・つまるところ、それは『ミハエルの体は自分のものだ』と言っているようなものであって。
アルトがそこまで意識しているのかは別として、しかし、無意識ならばそれはそれで厄介だ。
ミハエルの体はいいだろうと、臆面もなく自慢して。
おまけに腰回りの微妙な筋肉のサイズ感の変化を問われたところで、そんなことに敏感に気づくのは、毎日その感触を知っているのだろう・・・いったいどんなシチュエーションでアルトがそれを思い知るのか、ルカはあまり想像したくはない。もっとも、ミハエルはさらに詳細にアルトの体のあちこちを知り尽くしているのだろうが・・・伴侶である、アルトくらいのものであって。
つまるところミハエルの思惑と同じように、アルトもアルトの思惑で弁当作戦に出たわけで。

「・・・僕、アルト先輩にのろけられるとは思いもしませんでした・・・」
「?おかしなことを言うな、ルカ。俺がいつのろけたって?」
「いいんですよ、アルト先輩。でもそうやってのろけるのは僕くらいにして下さいね、間違ってもランカさんやシェリルさんにそんなこと言っちゃだめですよ。セクハラになりかねませんからね」
「な、なんだって?俺のどこがノロケでセクハラだ、おい、ルカ!」
「あーあ。なんだか、僕、ほんっとに馬鹿みたいだ・・・」

疲れはてた顔のルカと、怪訝な顔で問い詰めるアルトと。
分かりあえない二人から遠く離れたSMSの片隅では、今日もミハエルが大事そうに弁当箱を抱えているのだった。


TEXT | trackback(0) | comment(0) |


<<拍手御礼! | TOP | 拍手御礼!>>

comment











管理人のみ閲覧OK


trackback

trackback_url
http://sousou2.blog61.fc2.com/tb.php/946-d8aa3680

| TOP |

プロフィール

雨

Author:雨
いらっしゃいませ。
至らないところばかりの駄文置き場ですが、お暇つぶしになれば幸いです。
2008.5~2013.12

最近の記事

カテゴリー

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。