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2013/06/05 (Wed) 花盗人(19)

19話としていますが、物語的には蛇足です。
エピローグとしてお読み下さい。
そして本編が重く暗めだったので、ここだけちょっと雰囲気明るくなってます。
15話くらいからこれが書きたくて仕方なかった・・・
好き勝手書いたパラレル話ですが、パラレル度が高い方が書いてる本人は楽しいみたいです。
お付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。
ではではラスト、続きからどうぞー。




屋敷を達て後、しばらくは山の中を歩き通しだった。
『アルト姫は死んだ』との偽りを演じ通し、一応は奥方もレオンもそれを信じたようではあるが、あくまで油断は禁物だ。
特にあのレオンという男は、いかにも疑り深そうな奴だ。
密かに追っ手を放っているとしても不思議ではないと、ミハエルはそう考えていた。

(何より、目立つのは厳禁だ。なるべくおとなしく、人目につかないように進まなければ)

だがそれでも、時には人里に降りなければならないこともある。
たとえば今のような、人で賑わう宿場町などに。


***


「すごいなミシェル、人がいっぱいだ。まるでお祭りみたいだな」
「・・・ああ。はぐれるなよ、アルト」

はしゃぐアルトに釘を刺し、ミハエルはぐいと笠をかぶり直した。
こうして人の多い中に混じる時、ミハエルはいつも笠をかぶる。
目立ちすぎる金の髪はもちろん染め粉で染めてはいるが、作った黒髪はやはりどこか不自然だ。
不自然に黒い髪も隠しようのない碧の目も、笠の影が人目から覆い隠してくれる。
幼い頃、髪や目の色だけで迫害された記憶は今もミハエルの胸から晴れることはない。
もっともアルトだけは、そんなミハエルの金や碧を好きだと言ってくれるのだが。

「いらっしゃい、旅の方!今夜はうちにお泊まりなさいな!」

どこの宿場町でも、一番賑やかなのは呼び込み役の女の声だ。
大通りの道の両側に飯屋や宿屋がずらりと並び、その店店の前ではお決まりのように元気な娘たちが声を張り上げている。
若く元気な女たちは、こうした町の主役なのだ。
今もあちらこちらで旅人の袖を引き合って、きゃあきゃあとかしましいことこの上ない。
ミハエルにしても愛嬌のある女たちは嫌いではないが、押しの強い・・・強すぎる、というべきか・・・女は話が別だ。
まして、客引きの女たちはただ単に呼び込むだけが仕事ではない。
旅人に宿と食事とを与え、それに加えて夜の面倒もしっかりみてくれるのが彼女たちだ。
あらゆる意味で旅人の心と体を癒し慰める、それが彼女たちの立派な仕事であり、旅をする男たちにとっては、彼女たちはいなくてはならない存在なのだ。
とりわけこのように大きな宿場町では、客引き女にも美人が多い。
彼女たちにも自負があるのだろう、明るい声はいっそう華やいでいて。

「お兄さん、今夜の宿はお決まりかい。うちはこの辺じゃ特別美人揃いだよ」

気安く声をかけてきた女を、ミハエルはつれなく無視をする。
いちいち反応していてはきりがないほどの数なのだ。
右から左からひっりきなしにかかる声を、ミハエルは振り切るように早足で歩く。
宿は探すが、女は余計だ。
世間知らずのアルトに、妙なところを見せたくはない。
その手の商売とは無縁の宿を探そうと、夕暮れも近い宿場町の賑わいの中、ミハエルはアルトをつれて人混みを縫って歩くのだったが。

「なあミシェル、この人が宿代安くしてくれるって」
「はあ?アルト、何を・・・」
「まあまあ、こちらもいい男振り!うちに泊まってくれたらうんといい子をつけてあげるよ、兄さんがたみたいな男前なら、特別勉強してあげるから!」

こんなにきれいなお侍さんは初めてだとはしゃぐ呼び込み女をぶら下げて、アルトはきょとんと小首を傾げているのだった。


***


そして結局押しきられ、アルトとミハエルはその宿に泊まるはめになった。
とは言っても、

「なんだい、女はいらないって?・・・ああ、まさかお客さんたち・・・そうかそうか、分かったよ!隠すことはないさ、案外その手の人たちは珍しかないんだ」
「い、いや、俺たちは別にそういう・・・」
「誤魔化さなくたっていいんだよ、大丈夫、私に任せな。邪魔は入らないようにしてあげるからさ」
「ちちちち違うんだ、別に、決してそういうわけじゃ」
「あらやだ、ずいぶん恥ずかしがるんだね。あっちのきれいな若さんもうぶっぽいし・・・もしかして『まだ』なのかい?嫌だね、ぼさっとしてると、あんな綺麗どころ、他の誰かに食べられちまうよ!」
「な、な、な・・・!」

という、勝手に気を回された結果のことだ。
あれよあれよという間に宿の中へと連れ込まれ、飯だ風呂だと慌ただしくも堪能し、ようやく用意が出来たという部屋に通されたところが。

「・・・こ、これは・・・」
「安くしてくれたからか?ちょっと狭いが、二人で寝られなくもないよな、ミシェル」

一つの布団に、二つの枕。
あまりにも露骨な気の使われ方と、それを全く理解していないらしいアルトの反応に、ミハエルは大いに頭を抱えたのだった。


***


元々、ミハエルにはアルトは特別だ。
幼い頃、遭難の末に流れ着いたこの土地は地獄だろうかと真剣に思っていたものだ。
誰にも打ち解けない、心を許すまいと固く閉じていたミハエルの脆い心の殻に、唯一暖かく触れてきたのがアルトだった。
アルトがいなければ、きっと生きてはいなかっただろう。
折に触れて、ミハエルはそんなことを思う。
アルトの存在はあまりに特別すぎて、もはや比べるものもない。
男だとか女だとか、そんなことはもうとうの昔に関係ないのだ。
アルトのことが特別で大切すぎて、だから、ミハエルにはよく分からない。
アルトに対するこの感情が何なのか、ミハエルは自分でもよく分からないでいるのだ。

「・・・のんきな顔しやがって。子供みたいによく寝るな」

一つの布団でいいじゃないかと言い張って、アルトはあっという間に眠ってしまった。
ミハエルが思い悩む暇もないうちにアルトが寝入ってしまったのは、果たして幸か不幸なのか。
今さら布団を分けろとも言い出せず、窓枠に腰かけたミハエルは一人ぼんやりと、アルトの寝顔を眺めていた。

『初恋ってのは、叶わねえからきれいなもんだ。身分違いは報われねえぞ、ミシェル』

忍の里の頭領、オズマは冗談混じりによくそう言ったものだ。
オズマはアルトのことを少女なのだと思い込んでいたし、そんな彼からすれば、ミハエルとアルトは可愛らしい恋人未満にしか見えなかったのだろう。
アルトの性別を明かすわけにはいかなかったミハエルはそれを笑って受け流すことしか出来なかったが、あまりに繰り返し言われるうちに、次第に複雑な感情が込み上げるようになってきた。

(俺とアルトは、そんなんじゃない)
(そもそもアルトは男なんだし)
(身分違いだとか、それ以前の話だ)

きっといつかは、アルトも相応の相手と結ばれるのだろう。
想像しかけて、まだ幼かったミハエルは首を傾げたものだ。
何故なら、ミハエルはアルトより美しい少女を知らなかった。
アルトと結ばれるのなら、アルトより美しくなくてはならない。
きれいなアルトの隣に並ぶのだからそれは絶対条件だと、ミハエル少年は当然のように信じていたのだ。
しかし女姿で暮らすアルトが妻をめとるという未来がどうにも思い浮かばなかったのも真実で、ミハエルは再び首を傾げた。
どう考えても、アルトが女を抱く姿が想像出来ないのだ。

(アルトが聞いたら怒るだろうな。『俺は男だ!』なんて言って)

笑いかけて、しかしミハエルはそこでふと想像してしまった。
女を抱くのではなく、男に抱かれるアルトの姿を。
おかしなことに、それは容易く想像が出来た。
男の下になり、あえかに喘ぐアルトの姿。
それは、どれほど美しく淫らな姿だろう。

(・・・何を考えてんだ、俺は。こんなこと、あるわけない)

そう思う一方で、ミハエルは確かに高揚する自分を感じていた。
そして、もう一つの確かな感情は。

(・・・俺以外の奴が、アルトに触れるなんて)

許せない。
許されない。
もしそんなことがあれば自分はその相手を殺してしまうかもしれない、と。

(アルトの側にいるのは俺だ。ずっと、いつまでも)

それを恋と呼ぶのかどうか、ミハエルは知らない。
その激しく強烈な感情を、アルトにぶつけるつもりもない。
ただアルトの側にいて、アルトの幸せを見つめていられればいいのだと、そう思うのは紛れもない本音のはずなのに。

(アルトは綺麗だ。誰よりも)

芽生えかけた欲望を、ミハエルは必死に無視をしてきた。
違う、こんなのは何かの間違いだ。
誰より綺麗なアルトに、こんな欲望は相応しくない。
こんなのは気の迷いだ、一時のものなのだと、ミハエルは今でもそう自分に言い聞かせているというのに。

「・・・ミシェル、まだ寝ないのか?」

当の本人は、寝ぼけ眼でミハエルをじっと見上げてくるのだ。
普段は結い上げた黒髪をおろしてしまえば、それだけでどこか大人っぽい。
しどけない夜着の合わせからのぞく白い鎖骨や胸元から、ミハエルはそっと目をそらした。

「ああ、もうじきに寝るさ。気にせず寝てろよ、アルト」
「・・・ん。お前、も、早く・・・」

言いかけて、アルトは再び布団に沈んだ。
薄く形のよい唇は囁くように小さく開き、それはまるで誘うようだ。
行灯の薄暗い灯りの中、ミハエルはそんなアルトから目が離せない。
いけないと思う理性とは裏腹に、ミハエルはふらふらとアルトに覆い被さる。
そのまままるで魅入られたように、ミハエルはゆっくりと顔を近づけていったのだったが。



・・・・・・パタン。



背後の音に、ミハエルは心臓が止まりそうになる。
慌てて振り向けば、そこには、月夜に照らされた小さな影があった。
宿備え付けの小さな文机の上に置かれたそれは、アルトがこれだけはと言って屋敷から持ち出した美与の位牌だ。
アルトが寝る前にしっかりと立たせていたその位牌が、今は何故だか前のめりに倒れてしまっている。
先程の音は、位牌が倒れた音だったのだ。
風もない、揺らしてもいない室内で。
位牌が、ひとりでに。
まるで、ミハエルの勇み足をたしなめるように。

「・・・美与さまに見られてちゃ、悪いことは出来ないな」

よかったのか、悪かったのか。
ミハエルは何やらうすら寒い感覚に襲われながら、今日のところは眠ってしまおうと気を取り直した。
一瞬考えた後、ミハエルはそっと布団に忍び込む。
すると布団に入るなり、アルトが待ちかねていたようにくっついてきた。
夜はまだ寒いのか、ミハエルの腕にすがるように寝息を立てている。
ここが一番安心するのだといわんばかりの、最高に幸せそうな顔で。

「・・・眠れるかな、俺・・・」

煩悶しつつも、この布団から出るという選択肢はない。
こうして今夜も、ミハエルにとっての長い夜が始まるのだった。


***


「眠そうだな、ミシェル。眠れなかったのか?」
「・・・いいや、そうでもない。よく寝たぜ」

結局、ミハエルは一晩中まんじりともせず、一つ布団で横になっていた。
寝不足かと尋ねてくるアルトに明るく笑って、しかしミハエルは内心では少々不安でもあった。
もしこんな夜が続くようなら、任務に支障をきたしかねない。
これはただの物見遊山ではなく、早乙女の存亡を賭けた逃避行なのだ。
きっと今ごろは、矢三郎があの優しい笑顔のままで権謀術数に勤しんでいることだろう。
矢三郎のことだから、アルトを呼び戻す頃には、準備万端整った後のはずだ。
ならば、せめてそれまでは・・・と、ミハエルは気を取り直そうとはするのだが。

「ミシェル、あの宿の人が握り飯をくれた。途中で食べろって。いい人ばかりだったな、あそこ」
「へえ、そうか。ずいぶん気に入られたもんだな、アルト」
「ああ。出掛けにも、なんだかやたらと体を心配してくれたんだ。歩けるかとか、脚や腰は辛くないかとか・・・俺はそんなにひ弱そうに見えるんだろうか」
「・・・そ、それは・・・」
「昨夜はどうだったかって聞かれたから、よかったって言っておいた。風呂も布団も、宿代のわりに上等だったよな?気持ちよかったって言ったら、何故か宿の女の人たちが急にはしゃいで・・・何だったんだろう、あれは」
「そ・・・そうか・・・そんなことを・・・」

全く、無知とは罪なものだ。
宿を出る際、やたらににこやかだった女たちの顔を思いだし、ミハエルは密かに頭を抱えた。
そうか、あの笑顔はそういう意味だったか。
恥ずかしいやらばつが悪いやら・・・しかし一切手を出してはいないので、何を気にする理由もないのではあるが、それにしても。

「なあミシェル、こんなこと言ったら、兄さんに叱られそうだけどな」
「うん?なんだよ、アルト。もったいぶって」
「いや、その・・・兄さんは、国で大変だろうとは思うんだけどさ。俺は案外、こうしてあちこちを歩くのも苦じゃないというか・・・むしろ結構楽しいというか・・・」

間を置いて、アルトは小さく後を続けた。
目を伏せて、長い睫毛が頬に影を作る。
穏やかな風に吹かれた髪が、背中ではらりと艶やかに揺れて。

「お前と二人で、ずっとこうしていられたらいいのにと思うんだ」

その言葉に、ミハエルは思わず足を止めた。
呼吸も止めて、もしかしたら心臓まで一瞬止まったかもしれない。
そして、ああ、ととうとう認めた。

(駄目だ、もう。認めるしかない。逃げようがない)

アルトへの感情、他の誰に向けるものでもない・・・敬愛だとか親愛だとか、そんな生ぬるい言葉では言い表せない激しい熱情を・・・この期に及んで、ミハエルはついに認めたのだ。
もうどうしようもない。
自分はアルトが欲しいのだ。
心も体も全部丸ごと自分のものにしたいのだ、と。

「ああ、もう・・・お前のせいだぞ、アルト」
「?何がだ、ミシェル。俺が何をした?」
「今の今まで人が自重してたのに、それを全部壊しやがって。今までの、昨夜の我慢も台無しだ。おい、どうしてくれる」
「だから何がだ?何の話だよ、ミシェル」

わけがわからないと眉をしかめるアルトは、きっと本当に分かっていないのだろう。
彼のお姫様育ちは筋金入りだ、それはミハエルが一番よく知っている。
問題は、このお姫様に何をどう伝え教えるかということで。

「・・・難しい問題だな。下手をうてば、俺が矢三郎様に殺されちまいそうだし」

穏やかでないその言葉に、アルトが驚いて目を丸くする。
新緑の山の中、まるで鮮やかな緑の世界にアルトとミハエルだけが包まれ取り残されてしまったようでさえある。
切り取られた世界の中で、アルトの唇が薄く開いて。

「・・・ミシェ、ル?」

さて、まずはこの魅惑的な唇を塞ぐべきか、否か。
迷える若きミハエルは、人生史上最大の難問に頭を悩ませるのだった。


***


そしてそれから、早乙女の国には若き国主が誕生した。
後の世で賢主と称えられたその国主の側には、鬼とも天狗とも称された異様な貌の臣下が付き従っていたと歴史に残る。
主の行くところには必ず随行し、影日向に主を支えたというその臣の正体は謎に包まれている。
一説には、その異様な面相とは外国人のそれではないかとの説もあるが、それを知るすべは、今はもうない。



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