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2013/05/17 (Fri) 花盗人(17)

続きです。
さくさくっと進めてみました。
お約束、万歳。




火が出たのは、もうすっかり日も暮れた、しかし夜更けというにはまだ時間を残した刻限のことだった。
長らく人目を避けるように暮らした美与の屋敷は城から遠く離れ、人里からも少しばかり不便な場所にぽつりとあった。
そしてアルトが使用人たちに暇をとらせて以来、お屋敷に近づく者はますます減った。
そのせいか、里の人々が気づいた時には、屋敷の火はすっかり建物全体を覆い隠していた。

「何事か、何の騒ぎか!」
「火事、火事でございます!里の者たちが、姫君の屋敷から火が出たと!」
「・・・何ということだ、婚礼も目前だというのに・・・ええい、とにかく屋敷へ向かうぞ!姫さえ無事なら、それでよい!」

屋敷に最も近い関所の番人たち、正確にはレオンに命じられてアルトの屋敷を見張っていた配下の者たちはもちろん慌てふためいて現場に駆けつけたが、その時にはすでに遅かった。
夜道を駆けつけた彼らが目にしたのは、城内では冷静沈着で知られた矢三郎の取り乱した姿だ。

「姫様、アルト姫様はまだ中に!?離して下さい、私がいかねば!」
「無理だ矢三郎様、ここまで火が回っては、もう・・・!」
「そうだ、矢三郎様まで火にまかれちまう!」

飛び込もうとする体を押さえつけられ、矢三郎はただアルトの名を叫んでいた。
普段決して乱れることのない男の悲痛な様に、その場の誰もが声も出ない。
しかしごうごうと燃え盛る炎は容赦なく屋敷全体を覆い隠し、やがて建物自体が音をたてて崩落し始めた。
雪崩れてくる火の粉から逃げ惑い、見守る人々はなすすべもない。
駆けつけたレオン配下の男たちも里の人々も、ただ呆然と燃え尽きていく屋敷を眺めることしか出来ずに。

「・・・姫様・・・!」

がっくりと項垂れる矢三郎は、この世の誰よりも哀れな男のようだった。


*****


失火の原因は、今となっては突き止めようもない。
行灯の油か、かまどの残り火か・・・だが今さらそれが判明したところで、失われたものが帰ってくることはない。
何故その夜に限って帰りが遅かったのかと矢三郎はきつく尋問されたが、

「ご婚儀のご相談のため、城にあがっておりました。気づいた時にはもう日が暮れて、帰途についた頃には、すでに火が・・・」

と言う言葉に、誰もが納得した。
もはや頼るもののなかったアルト姫にとっての、矢三郎は唯一の庇護者だったのだ。
また美与の代から続く彼の忠義は疑いようもなく、その忠義が故にアルトの婚儀のため尽力していたことは、矢三郎を知る者ならば誰もが認めることでもあった。
しかし、その忠義心が今回の事態を招いたこともまた事実。
失火の原因が何であれ、その場に矢三郎が居合わせたなら、全焼は免れたはずだ。
そうでなくとも、アルトを連れて屋敷から逃げ出すことは不可能ではなかっただろう。
そうであれば、今このように、屋敷跡からアルトのものと思われる真っ黒な遺体が見つかることもなかったはずだ。

「早乙女の姫様が・・・ああ、あんなに若くてお綺麗だったのに」
「痛ましいことだよ、なんだってこんなことに」

里の者たち、アルトを知る者たちは皆、囁きあって手を合わせた。
城の者たちの多くもその若すぎる死を悼む一方で、この火事に疑いを抱くものもいた。

「どうも状況が不自然だ。よもやとは思うが、姫は三島殿とのご婚儀を嫌がられるあまり、自ら火を・・・」
「それ以上は言わぬ方がお主のためだ。今さら三島殿を責めたところで、我らの首が飛ぶだけよ」

不審火を疑う者も少なくはなかったが、それを声高に叫ぶ者は誰一人としていなかった。
今さら真実を追求したところで姫君が甦るわけでなし、悪戯な噂はますます矢三郎を傷つけるだけだろうと・・・嵐蔵の一の忠臣であった矢三郎は、他の家臣からの信頼も厚かった・・・いう声が半分。
しかしもう半分は、レオンの不興を恐れての沈黙だ。
三国一の美姫とうたわれた先代君主の側室に生き写しの、若く美しい花嫁を手に入れるはずだったレオンは、突然のアルトの死をどう思うのか。
また、アルトを・・・正確にはその母である美与を・・・憎み恨んでいた奥方は、今回の火事をどう思うのか。
城の者たちは皆息を潜めてその反応をうかがっていたが、予想に反し、それは大事には至らなかった。

「ふん、そうか」

アルトの死の一報を聞いた奥方は、ただ一言そう言い放った。
そしてそれきりまるで興味を無くしたように、アルトのことを話題にすることもなかった。
喜ぶでもなく、もちろん、悲しむでもなく。
結局のところ、奥方にとってのアルトはあくまでその程度のものでしかなかったのだのだろう。
奥方の憎しみの対象はあくまで美与その人であり、アルト本人ではなかったのだ。
もっともレオンの方は、さすがにそこまでは思いきれないようだった。
誰が進言せずとも、アルトの死が不審であることくらいはすぐに分かることだ。
まして聡いレオンであれば、すぐにアルトの自死の可能性と、その原因が己との婚姻にあることくらいは、あまりにも容易に思い至る。

「・・・よくも腹いせのような真似をしてくれたものだ」

口惜しい。
腹立たしい。
アルトを失った葛藤をその一言だけに押し込めて、レオンは無表情を貫いた。

(まあいい。あの美貌は惜しいが、国主ともなれば、女も男も選び放題だ。私は先代のような潔癖主義ではないからな)

あの気の強そうな美姫を屈服させられなかったのは惜しいが、肉欲を満たす代わりならいくらでもいる。
それこそ国主になれば、放っておいても女が寄ってくるだろう。
そう思い、レオンもまたアルトの死をそれ以上気に留めることはなかった。


*****


こうして、アルトの遺体は美与の墓の隣にひっそりと葬られた。
仮にも国主の姫君の葬儀とは思えない、慎ましすぎるほどの葬儀には、当然のように城からの参列者などはいなかった。
人もまばらな寺の境内に佇むのは、沈痛な顔の矢三郎と、美与やアルトと親しくしていたごく少人数の里の者たちばかりだ。
そしてそこから相当に離れた山の中腹、青葉が繁る山の中に、ぽつんと寄り添う人影があった。
寂れた山寺、その境内で静かにすすり泣いく人々をじっと見つめる、その人影とは。

「・・・庭師の爺さんに、小間使いの小僧までいるぜ。ああ、婆さんなんかあんなに泣いて」
「本当に目がいいんだな、ミシェル。あんな遠く、俺には全然見えないぞ」

緑の木々に隠れるように立っているのは、他ならぬアルトとミハエルだ。
遠い山寺の葬儀に目をこらすミハエルに、アルトはそっと問いかける。

「やっぱり、皆をだますのは気がひけるな。なあ、婆やだけにでも本当のことを言うわけにはいかないか」
「ダメに決まってんだろ、アルト。何のために矢三郎さまがあんな芝居してると思う?他の皆に『アルトは死んだ』って思わせるためだろう。少なくとももうしばらくは、婆さんたちも騙されてもらわないと・・・しかし、矢三郎さまはずいぶんな役者だな。あれじゃあ婆さんたちも間違いなく信じるぞ」

頷いて、それでも不安な顔のアルトに、ミハエルは優しく微笑んだ。

「心配するなって、きっと矢三郎さまがうまくやってくれるさ。あの人に任せておけば何の心配もいらないに決まってる」

その言葉に、アルトは再び素直に頷いた。
城下の者でさえ知る矢三郎の二つ名は、『嵐蔵の懐刀』だ。
美与とアルトの世話役として城を離れてもなお嵐蔵が矢三郎を頼りとし、何かにつけては呼び寄せていたこともアルトはよく知っている。
矢三郎の知恵は一等だ。
それに、その忠義の心根も。
もとより、アルトはそれを疑うつもりは微塵もない。
決して、誓ってそんなつもりはないのだが・・・こと今回に限り、込み上がる不安を拭いきれないのも本音ではある。
何故なら、矢三郎の計画はあまりにもアルトの想像を超えたものだったのだ。
矢三郎の発案、それは。

「そんな顔するなよ、アルト。やっと外に出られるんだぜ、どこにだって行けるんだぞ。しゃんとしろよ、『若様』!」

『姫君』を葬り、新たに『若君』を仕立てること。

あまりにも大胆なそれが、矢三郎のとっておきの奇策なのだった。

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