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2013/03/13 (Wed) 花盗人(15)

最近ちょっと嬉しかったこと。
職場と自宅へのちょうど中間くらいのところにパン屋さんが出来そうなんです(今工事中)。
パン好きだから嬉しいなあ・・・ちょいちょい買って帰ることになりそう。
実家を出てから買い食いの楽しさを知った姫がミハやルカとともにあちこち食べ歩きしてたら可愛いな~とかそんなことを言いつつ、だいぶ暗い15話です。

ではでは、以下から続きをどうぞ。




控えの間に通されて、アルトはようやく落ち着いた。
誰もいない何もない空っぽの部屋は、だからこそ今のアルトを安心させる。
緊張しきっていた体はまだ強張って、指先にはまるで血の気がない。
唯一用意されていた小さな火鉢に手をかざし、アルトは無言で細い指をこすりあわせた。

(・・・兄さん、早く戻ってこないかな)

矢三郎が戻ってきたら、すぐにでも屋敷に帰ろう。
一刻も早く帰るのだ。
こんなところに、少しも長居はしたくない。
冷めた茶に口をつける気にもならず、アルトはじっと身を固くして矢三郎を待っていた。
待って待って待ちわびて、だからようやく襖の向こうに人の気配がした時には、アルトは心から安堵した。
これでやっと屋敷に帰れると、微笑みすら浮かべて襖に向き直る。
だがそこに現れたのは、矢三郎などではなかった。
音もなく襖を開けた隙間から覗いたのは、あの蛇のような目だ。

「やあ、まだお帰りでなくてよかった。もっとじっくりお話したかったのですよ、アルト姫」

三島レオン。
早乙女の養子に入り、形式上はアルトの兄になったという男は、まるで当然のようにアルトの客間へと入った。
ぴしゃりと襖を閉じられて、アルトは何故か恐ろしい。
それでも幼い頃から躾られた礼儀の通りに、反射的に畳に手をついてしまう。
優雅にすら見える仕草のまま、アルトは額も下げようとしたのだったが。

「もったいない。その綺麗な顔を、もっとよく見せてもらいたいな」

伏せかけたアルトの頬に手をかけて、レオンは無理やりにアルトを上向かせた。
力づくのそれに、アルトはカッと血が上る。
おとなしやかな姫君の仮面も咄嗟に忘れ、「無礼者!」と顔にかけられた手をはたき落とすと、おとなしいだけの姫君と思ってでもいたのか、レオンはひどく驚いたようだった。
切れ長の瞳を見開いて、しかし次の瞬間には、その目をにやりと細める。

「おやおや、姫君は案外なお転婆か。しかしやはり美しいな。さすがは美与様の一人娘、噂には聞いていたが、それ以上だ」
「無礼者。早乙女の跡を継ぐ者が、礼儀もわきまえないか」
「ふふ、ずいぶん威勢がいいな。だが怒った顔も美しいものだ、おとなしいだけの人形よりも、ずっといい」

くつくつと低い含み笑いで、レオンはじっとりとアルトに視線を這わせた。
身構えるアルトに再び手を伸ばし、力強く引き寄せる。
もちろんアルトは抵抗したが、レオンの腕は案外に強く、そう簡単にはふりほどけない。
美貌を強ばらせたアルトの顔をいかにも楽しげに眺め、レオンはいっそ朗らかな声で囁いた。

「美姫は国の宝・・・アルト姫ほどの美姫なら余計だ。他国に嫁がせるのは、いささかもったいない気もするな。生まれ育ったこの国を離れるのは、姫も辛いだろう」

間を置いて、レオンは再び薄く笑う。
その笑みに、アルトはぞくりと鳥肌が立った。
言いようのない悪寒に、しかしアルトは為すすべもない。
少しでも体を離そうと、精一杯に身をよじっていたところに、レオンの残酷な声が囁く。

「どうだ、アルト姫。他国に嫁ぐくらいなら、私のものにならないか」

その言葉に、アルトは愕然と目を見開いた。
しかしアルトをさらに動揺させたのは、その後に続いた言葉だ。

「悪い話じゃないと思うがね。私は秘密を守る男だ」
「ひ、みつ・・・?秘密なんて、何も」
「今更誤魔化すことはない。私はひどい面食いでね、美しければ、男も女も構わないんだ」
「・・・・・・な・・・!」

ばれている。
咄嗟に言い繕おうとしたアルトだったが、かすかに開いた唇からは、何の言い訳も出て来ない。
レオンは一気に青ざめたアルトの顎をぐいとつかみ、無理矢理に顔を近付けた。
目もそらせないほどに近付いて、その痩せた頬を小さく歪める。
それはまさしく、獲物を前にした蛇の笑みだ。

「よく考えてみるがいい。他国に嫁いで、いったいどうなる?いくら女の振りが上手くても、閨の中までは騙せないだろう。侮辱したかと、下手をすれば戦の火種になりかねない」
「そんなの・・・そうなるくらいなら、いっそ」
「男と白状するか?しかし今更誰が信じる?私だって初めはとても信じられなかったくらいだ。それとも、皆の前で脱いででもみせるか」

嘲る言葉は、しかし確かな事実でもあった。
生まれてこの方女として生きてきたアルトが今更「実は男だ」と言ったところで、冗談にしかならないだろう。
嫁ぎたくないがゆえの、子供じみた言い訳だと思われるのが関の山だ。
おまけに幸か不幸か、アルトは母に生き写しだ。
たおやかな乙女だった美与を知る城の者たちは、余計にアルトを女として見るだろう。
その誤解を覆すには、本当に脱いでみせるくらいのことをしなくてはならないかもしれない。

(だけど、そんなことをしたところで)

考えて、アルトは思わず唇を噛んだ。
男だと白状し、仮に信じてもらえたところで、事態は何も改善しないだろう。
むしろよくも長年騙してくれたなと、一層奥方を怒らせるだけかもしれない。

(それが俺に向けられるだけなら、まだマシだ。だけどもしかしたら兄さんや、それに屋敷の皆にまで)

すでに役を解いたとはいえ、屋敷には長年勤めた奉公人が幾人もいた。
アルトのことを知らなかったはずがない、知っていたなら何故城に伝えなかったかと、下手をすれば、彼らにまで奥方の害が及びかねない。
それだけはなんとしても避けなくてはならないと、アルトはますます唇を噛み締める。
うつむくアルトを見下ろして、レオンはうっすらと微笑んだ。

「男と名乗ってしまえば、姫こそが早乙女の正当な後継だ。私の出る幕はなくなってしまう。しかしあの方がそんなことを許すものかな。恐ろしい方だからな、あの奥方様は」

悋気激しい奥方は、いったいどんな行動をとるだろう。
それは余人には計りがたい、しかし、悪い想像ならばいくらでもつく。
アルトが生まれてこの方、美与と嵐蔵が危惧していたこと。
それこそが、今やアルトが直面しかけている、命の危機だ。
事故に見せかけた暗殺くらいは平気でやりかねないのがあの奥方という女なのだと、アルトは幾度も聞かされてきた。
だからこそ、アルトは女を演じなければならなかったのだ。

(このまま「女」でいたんじゃ、そのうち本当に嫁にやられる。男の身で嫁入りなんて、手討ちにされても文句は言えない。だけど今更本当のことを言ったところで、俺の身はともかく、屋敷の皆が罰せられでもしたら・・・)

何も言えずうつむくアルトに、レオンは優しげな声で囁く。
耳に響くその声は、優しいからこそ恐ろしい。

「分かるだろう、私に全てを任せれるのが一番事が穏便だ。私が願い出れば、奥方もそう無碍にはしないだろう。姫は国主の妻として、それなりの立場も暮らしもこの私が請け負ってみせる。きっと悪いようにはしない」

それは、さもアルトを保護する言葉だ。
しかしレオンの本音は、隠しようもないほど・・・隠す気もないほどの露骨なそれで。

「だから姫はただ、私を愉しませてくれればそれでいい。男も女も、その体はどちらもまだ知らないのだろうな。何、心配することはない。この私が手取り足取り、男の悦ばせ方を教えてあげよう。そのうち私なしではいられない体にしてみせるさ」

従順に脚を開けば命の保証はしてやろう、と。
おとなしく腰を振りさえすれば可愛がってやろう、と。

(・・・そんなの、死んだ方がマシだ)

噛み締めた薄い唇からは、とうとう赤い血がにじんだ。


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