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2013/02/11 (Mon) 花盗人(12)

12話です。
続きからどうぞ。




駆け付けた屋敷は、ひどくがらんとしていた。
いつも笑いに満ちていたはずの屋敷、ミハエルにとっては暖かな記憶だけが残るお屋敷に、まるで人の気配がない。
いつも庭いじりをしていた爺も、一日中台所で煮炊きをしていた婆や姉やの顔も見えず、ミハエルは途端に不安になる。
人の気配もなく静まり返ったお屋敷は、まるで知らない場所のようだ。

「アルト・・・、いないのか?」

呟いて、ミハエルは屋敷に上がり込んだ。
いつもなら、門をくぐるなり庭先の爺が笑いかけてくれていた。
裏口に回れば、婆様や姉やがいつまでもミハエルを子供扱いで、おかずの残りを無理にでも食べさせてくれたものだ。
誰の声もしない、灯りもなく薄暗い屋敷の中まで入り、ミハエルはひどく不安に襲われる。
アルトの名を呼びながら次々と襖を開けていくのに、ミハエルはふと足を止めた。
人がいる。
普段ならミハエルが入らない、入ることを許されなかった離れの一角。
そこは、美与の寝所だった部屋だ。

「・・・ここに居たのか、アルト」

声をかければ、アルトはゆっくりと振り向いた。
泣いてはいないようだったが、その顔は白く、生気がない。
まるで美しいだけの人形のようなアルトの顔が、ミハエルを見た途端に大きく震えた。
長い睫毛が震えて瞬き、美しい顔が少し歪む。
その様に耐えきれず、ミハエルはアルトに手を伸ばした。
瞬間、アルトがようやく口を開く。

「・・・遅い、ミシェル・・・!」

振り絞った声まで揺れていて、ミハエルはぎゅっとアルトを抱き寄せる。
触れた着物、髪の毛先まで冷たくて、アルトがどれだけこの寒い部屋に居たのかが知れた。

「悪い、アルト。一番お前が大変な時に、居てやれなかった」

抱いた体は、記憶にあるよりさらに細い。
立て続けに父と母とを失ったアルトを思い、ミハエルは言葉もなかった。
ただでさえアルトの世界は狭いというのに、それはどれほどの不安だったろう。

「ごめん、待たせたな。これからは、ずっと一緒に居るから」

囁いて、細い背中を何度も撫でた。
そうしているうちに、強張っていたアルトの体からようやく力が抜けてきた。
くたんと、ミハエルの胸にもたれるように身を預けて。

「・・・どこにも行くなよ、ミシェル」

そう言って、アルトはぎゅっとミハエルの袖を握りしめた。
うつむいたまま、白い頬をミハエルの肩にすり寄せる。
その温もりに目を伏せて、アルトは小さく呟いた。
そしてじわりと、ミハエルの首筋が濡れる。

「・・・・・・お前がいないと、上手く泣けない」

たまらず、ミハエルはその涙を舐めとった。


**********


積もる話はいくらもあった。
嵐蔵が亡くなってからはあっという間に全てが変わってしまったと、アルトは淡々と話し続ける。

「屋敷の皆には暇を出したんだ。ここも、この先どうなるか分からないし」
「アルト、それはどういう意味だ?まさか、もう何か・・・」
「いや、まだ何も。でも時間の問題だろう。父上が亡くなった以上、あちらも遠慮はしないだろうしな」

アルトの自室に移動して、火を起こして2人で温もる。
ようやくミハエルと会えて安心したのか、アルトはずいぶん落ち着いたようだった。
それでもミハエルから離れようとはせずに、ぴたりとその腕にくっ付いたままだったが。

「・・・そう思えば、母様が静かに亡くなられたのは不幸中の幸いだった。一応葬儀も出せたことだし」

だがその葬儀は、仮にも国主の側室らしいものではなかったという。
噂で聞いたそれにミハエルは眉をひそめたが、アルトは穏やかに首を振る。

「別に、それはいいんだ。母様は華美なことは苦手だったし、本当に親しい人間だけで見送った方が、母様も嬉しいだろう」

かねてから昵懇だった尼僧が屋敷を訪れ、慎ましい葬儀をあげだのだという。
それは確かに、万事控えめな美与に似合いだったのかもしれない。
ミハエルが同意すると、アルトはようやく少し笑った。

「もしかして美与様は、殿様を追いかけちまったのかな。今頃、夫婦水入らずで仲良くやってるのかもしれない」
「空の上でか?そうだな、そうだといいな」

顔を見合わせて笑ったその時、表の戸が開く音がした。
反射的に身構えるミハエルに、アルトが静かに声をかける。

「大丈夫、きっと兄さんだ。このところ城に詰めていたのが、やっと終わったんだろう」

アルトの言う通り、ごく静かな足音は確かに矢三郎のものだ。
目だけでなく耳もいいミハエルは、そのことにひどく安堵した。
矢三郎だけは、この屋敷に残ってくれたのかと。

「帰りました、アルトさん。・・・おや、懐かしい顔がいますね」

久しぶりに会う矢三郎は、少し疲れた顔だった。
いや、焦燥しているというべきか。
どちらにしろ、この男がそんな顔をするのは非常に珍しいことだ。
ミハエルが思わずその顔を眺めるのに、矢三郎もじっとミハエルを睨みつけた。

「ちょうどいい。お前にも知らせなければならないと思っていたところです」
「・・・何事だ、兄さん。お城で何かあったのか」
「ええ。アルトさん、驚かずに聞いて下さい」

向き直り、矢三郎は重く口を開いた。

「早乙女の跡目には、遠戚の三島家から養子を迎えるそうです。アルトさんは他国に輿入れを・・・お相手は、奥方様がお決めになると。それも、ごく近いうちに」

きっとその命令に、拒否権などあるはずがない。
身じろぎもしないアルトの肩を、ミハエルはただぐっと抱き寄せていた。

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