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2013/02/03 (Sun) 花盗人(11)

間が空きましたが、11話です。
続きからどうぞ。




いつも側に居たかった。
手を伸ばせば届く距離にいて、その細い肩を抱いてやりたかった。
今はまだ鳥かごに繋がれたその手を引いて、いつの日かはどこにだって連れて行ってやりたかった。
何より、その瞳が涙に濡れるところは見たくなかった。
もしも彼が泣いているのなら、その涙を拭ってやりたかった。
白い頬に流れる涙を、そっと舐めてやりたかったのだ。

彼がいるからこそ、ミハエルは今こうして立っていられるのだと思っている。
幼い日、海に投げ出されて一度は失ったこの命に、再び光を与えてくれたのは彼なのだ。
主に尽くせよと、矢三郎に、オズマに言われるまでもないことだ。
彼のために生きること、それがミハエルの人生の命題だ。
自分の身がどうであろうと、彼さえ笑ってくれたらそれでいいのだ。
彼の幸せのために生きようと、ミハエルは、とっくに覚悟を決めていたというのに。


**********


「・・・殿様が・・・?」

ミハエルが聞いた時には、すでに葬儀の用意が整えられた後だった。
あっという間だったらしい。
このところ病がちだった君主・嵐蔵は、それでも小康状態だったはずが、にわかに高い熱を出し、数日のうちに息絶えたのだという。
早乙女の屋敷、アルトたち母子が住まう離れに時折訪れていた嵐蔵の姿を思い出し、ミハエルは信じられない思いだった。
嵐蔵は決して高齢ではなく、またその体は頑強で、母親似のアルトとは違い、いかにも屈強な武人という風情だった。
病とは無縁の人のように思えたものだがと思うミハエルに向かい、忍びの里の若き頭領であるオズマは低く囁いた。

「滅多なことは言うもんじゃねえぞ。ただでさえ、殿様の死を疑っている奴らは少なくないんだ。俺たちは、そいつらが暴走しないように歯止めにならなきゃいけねえ」

まるでオズマ自身が嵐蔵の死に不審を抱いているような物言いに、ミハエルは思わず眉をひそめる。
早乙女に仕える忍びとして、オズマは嵐蔵に近い人間だったはずだ。
そのオズマでさえ疑いを持つということは、少なくないどころか、相当に怪しいところがあるのではないか。
・・・嵐蔵は本当に病死なのか。
考え込む顔のミハエルに、オズマは再び口を開いた。

「妙なことは考えるなよ、ミシェル。俺たちの主は早乙女家だ。嵐蔵様亡き後は、次代の主様のために忠義を尽くすことだけを考えろ。殿様の死に裏があろうがなかろうが、それは俺たちが考えることじゃない。俺たちはただの手足なんだ」
「しかし、それじゃあ・・・次の殿様、って」

アルトか。
そう言いかけて、ミハエルは咄嗟に口をつぐんだ。
長じてなお、アルトの扱いは世間的には『姫君』なのだ。
直系男子が相続の基本である以上、いくら実子といえども、アルトの立場はそう強くない。
しかしそれでも、嵐蔵の子はアルトしかいないはずだが。

「さあな、今頃城は大騒ぎだろう。どこからか縁のある養子を迎えるか、あるいはお前のお転婆姫に婿を取らせるか・・・おっと、そう睨むなよ、ミシェル」

低く笑われて、ミハエルは初めてからかわれていることに気がついた。
だがそうと知ってもとても笑う気にはならず、じっとうつむいて床を見つめる。
アルトが婿を取る。
考えたくはないが、アルトが『姫君』で居続ける以上、それは避けられない事態のはずだ。
深刻な顔のミハエルに、オズマは慰めのような声をかける。

「そんな顔すんな、すぐにどうこうとはならねえだろうさ。お城の奥方様は、なにしろ美与様と姫様がお嫌いだ。憎い側室の一人娘に跡目を継がせるなんざ、好き好んでやりたくはないはずだ」
「・・・そう、でしょうか」
「そう思った方が気が楽だろう?第一、確かなところは分かりゃしないさ。全ては奥方様の気持ち一つだ。城のうるさ方は、今じゃすっかりアテにならねえしな」

嵐蔵の正室、城に住まう奥方様は、隣国から嫁いできた身の上だ。
小国の早乙女とは違い、隣国は大国と呼ぶに相応しい強大な力を誇る。
味方であればこれ以上なく頼もしい相手だが、敵に回せばこれほど恐ろしい相手もいない。
そして他ならぬ奥方様は、猛将と名高い隣国当主の実の娘だ。
それも溺愛のという話さえある。
その奥方様の気を損ねたら、隣国がどんな動きを見せるか。
城の人間が恐れているのは、ただそのことだけなのだろう。

「・・・戦に、なりますか」
「なりゃしねえさ。そのために俺たちがいるんだ」

そう言って、オズマは懐から束ねた紙を取り出した。
幾重にも包まれたそれは、ただの手紙にしてはやけに厳重だ。
怪訝に見つめるミハエルに、オズマはそれを差し出した。

「殿様が書き残した密書だ。お前が運べ、ミシェル」
「これを・・・隣国へ?」
「そうだ。直接、当主に届けろ。城の間取りは教えてやる」
「俺が・・・一人で、ですか?」
「ああ。うちじゃあお前が一番足が速い。他の連中がいちゃ、かえって足手まといだろう」

しかし、隣国へはとても1日では行けない道のりだ。
いくつもの山を超えて、川を渡って・・・それから堅牢と名高い隣城へ忍び込むのに、いったい何日かかるのだろう。

(すぐにでも、アルトのところに行きたいのに)

父の死に、アルトはどんな思いでいるのだろう。
今すぐに走って行って、その細い肩を抱いてやりたいというのに。

「行け、ミシェル。これは命令だ」

密書の使い。
生きて帰る保証はない。
しかしミハエルには、それを断る権利もないのだ。

「・・・だが、死ぬなよ。あの姫さんに泣かれちゃたまらねえからな」

その言葉に、ミハエルは、頷くことしか出来なかった。


**********


そして送り出されたミハエルは、ほとんど寝ずに走り続けた。
どうにか城に忍び込み、噂の主の寝所にたどり着いた時には奇跡だとさえ思ったものだ。
そして当主が密書の返事をしたためるのを待つこと、さらに数日。
飛ぶように国に戻ったミハエルに伝えられたのは、美与の葬儀を終えたという信じがたい知らせだった。

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