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2012/12/13 (Thu) 花盗人(10)

続きです。10話です。
ミハの前でだけ素になれる姫に萌えるなーという話です。




開け放した襖の向こうで、アルトが花を生けていた。
楚々と端座した姿は、まるで描かれた美人画のよう。
節の目立たない白い手が優雅に小菊を生けている様は、まるで触れたら壊れる夢の世界のようにさえ思われるものだったが。

「・・・ミシェル、久しぶりだ!」

麗しいその人は顔を上げるなり、ミハエルの元に駆け出すのだった。


**********


「何してるんだよ、草履も履かずに。あーあ、そんなに汚して」
「だってお前、目を離したらすぐにどこかに行くだろう。なあ、今度はしばらく居ろよ」

裸足のままで庭へと駆け下りて、アルトは真っ直ぐにミハエルの胸に飛び込んだ。
ミハエルは両手を広げてアルトを抱いて、花の香の残る髪へと鼻を埋める。
アルトの香り。
ミハエルを安心させる、唯一のそれだ。

「・・・ミシェルがいないと、こんな話し方も出来ない。そのうち本当に自分が男ってことを忘れそうだ」
「そうか?花を生ける姿はいかにも深窓の姫君だったけどな。どこから見ても完璧なお姫様だ」
「当然だろ、何年『姫君』をやってると思う。筋金入りだぜ」

幼かったアルトも、もう16になる。
あどけなくも愛らしかった容姿はますます美与に似て、匂い立つように美しい。
整いながらも繊細な目鼻立ちはたおやかに、肉付きの薄い体はほっそりとして儚げだ。
早乙女の一人娘は天の乙女のごとく麗しいと、アルト本人は決して屋敷から出ないにも関わらず、すでに近隣諸国でもその美貌が讃えられるほどになっていた。
・・・そのことが、ミハエルを警戒させる一因でもあるのだが。

「俺ももう16だぞ。こんな格好、いつまでやらなきゃいけないんだ」
「そう言うなよ、似合っているのに」
「・・・そうなのかどうかも、最近じゃよく分からないんだ」

比べるものがないからなと、アルトはため息とともにうつむく。
男である事実をひた隠しにするために、アルトはほとんど屋敷から出ることのない生活を続けていた。
訪れる者も滅多にいないこの屋敷では、アルトが顔を合わせるのは他ならぬ母と、それから昔からの使用人ばかりだ。
あまりにも変化のない毎日に、若いアルトは気力を持て余していた。
そんな環境では、自分がどう思われているのかも分からない。
まして自分の容姿が世間でどんな評判を呼んでいるかなど、知るはずもなかった。
アルトの知る世界は、この箱庭のような屋敷だけなのだ。

「屋敷が嫌なわけじゃない・・・だけど時折、息苦しくてたまらなくなる」

屋敷の者は優しい。
誰もアルトを傷つけない。
そうであると共に、外の世界の何もアルトに知らせないのだ。
アルトと外の世界との接点は、唯一ミハエルだけだった。
ミハエルが語る世情、ミハエルが教えてくれる外の世界のあらゆることが、アルトには魅力的だった。

「いいな、ミシェルはあちこちに行けて。俺も、お前の里にくらい行けたらいいのに」
「そうだな、アルトに見せたい景色はいくらもある。山中の花畑は見事だぞ、山から見る夕日も」
「そうか。・・・いつか、見たいな」
「行ってみるか?俺がアルトを抱えていけば、1日あれば里まで行ける」

もちろん屋敷の皆には内緒だというミハエルの言葉に、アルトは一瞬目を輝かせたが、しかしすぐに首を振った。

「・・・そうだな。いつか、な」
「どうしたアルト、何かあったのか?」

アルトの白い指先が、ミハエルの袂をぎゅっと握る。
無意識に力の入ったその指先を、ミハエルはそっと上から握った。
汚いことなど何も知らない、白く細い指。
それを守るためなら何でもすると、幼い日に誓ったその思いは、今もミハエルの胸にある。
手を握ったまましばらく黙っていると、ようやくアルトが口を開いた。

「・・・母様の具合が悪いんだ」

そうか、とミハエルは小さく頷いた。
美与は生まれつき体が弱い。
冬がくるたびにひどい風邪を引き、季節の変わり目ごとに熱を出す。
美与のそんな体の変調には慣れたはずのアルトがこうまで深刻な顔をするということは、きっと相当に悪いのだろう。
アルトと似た顔の優しげな姿を思い出し、ミハエルもそっと目を伏せる。

「それだけじゃないんだ。このところ、父上も具合がお悪いらしい」
「・・・殿様が?」

ミハエルが思わず声を上げると、アルトは「しっ」とそれをいさめた。

「まだ周りには伏せているそうだ。でも相当にお悪いらしいって、兄様が・・・兄様も今は城に行ってる。忙しそうなんだ、最近」
「・・・そうか」
「俺も何か出来たらいいのに。・・・見舞いにも行けないなんて」
「そうか・・・・そうだな」

今はおとなしいとはいえ、嵐蔵の正室の美与とアルトへの憎しみはいまだに根深いと聞く。
城に行けばアルトに万が一のことがあるかもしれないと、矢三郎はそれを心配しているのだろう。
今ではアルトもその事情を理解してはいたが、それでも寂しさが拭えるわけではない。
実の父の顔を見ることも許されない、何の役にも立てないという事実が身にしみるばかりだ。
アルトは再び下を向き、ミハエルの腕にすがってうつむく。
そんなアルトの頭を、ミハエルは宥めるように撫でてやった。

「殿様も美与様も、早く良くなるといいな。そうしたら、久しぶりに三人水入らずで過ごせばいい」
「うん。・・・父上に会うのは、いまだに緊張するけどな」
「はは、殿様が聞いたら悲しむぞ」

ごくまれに、嵐蔵がこの屋敷を訪れることがあった。
仮にも夫婦であるにも関わらず、人目を忍ぶような逢瀬しか出来ない二人だった。
アルトがまだ幼い頃は、その稀な来客が実の父とは分からずに、強面の顔に泣いてしまうばかりなのだったと・・・屋敷の大人たちが好んで話す、愛らしい昔話だ。
だがそんな稀な逢瀬だけが、アルトが唯一両親と場を共に出来る一時だった。
嵐蔵に会う時のアルトの照れくさそうな顔を、ミハエルはよく覚えている。
嵐蔵もまた、アルトを前に態度を決めかねているようなところがあった。
不器用なところがよく似ている。
二人は、やはり父子なのだ。

(それにしても、もし殿様に万が一のことがあったら)

不吉だ。
そう思っても、ミハエルは考えずにはいられなかった。
今嵐蔵が亡くなったとしたら、跡目争いが起きるのは間違いがない。
なにしろ、嵐蔵には嫡男がいないのだ。
・・・アルトがそうだとバレない限りは。

(だとしたら、アルトが男だと知れた方がいいのか。アルトが殿様の跡を継ぐのが決まってしまえば、奥方様も表立っては何も出来ないとは思うが)

しかし、嫉妬に狂った人間のすることは分からないものだ。
アルトに害が及ばない確信もない状況では、ミハエルは何が良いとも思えなかった。
アルトが幸せであればいいと、ミハエルの願いは、ただそれだけだった。


**********


「なあミシェル、今日は帰らないでくれよ。そうだ、屋敷に泊まっていけばいい」
「無理を言うなよ、アルト。子供の頃じゃあるまいし、このお屋敷のどこに俺の寝場所が」
「そんなの俺の部屋でいいじゃないか、そうだ、俺の布団で寝ればいい。黙っていればバレやしないさ。ちょっと狭いが、2人くらいなら寝れるだろう」
「・・・アルト・・・お前なあ・・・」

一緒に寝よう。
くっ付いていれば寒くない、と。

まるで女の誘い文句のようなその言葉に他意がないことくらい、ミハエルには分かりきったことだ。
忍びの里で大人に揉まれ、すっかり耳年増のミハエルとは違い、アルトは完全な純粋培養なのだから。

(・・・全くこいつは、体ばかり大人になりやがって)

無邪気なばかりのアルトの笑みに、ミハエルが勝てるわけがない。
そして結局は、早々に睡魔に負けたアルトをミハエルが一晩中眺める羽目になるのだった。

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