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2012/11/29 (Thu) 花盗人(8)

続きです。
和名の登場人物だけではあまりにキャラが少なく、オズマに出演願いました。
大陸からわたってきた一族、その子孫、という体で。




足が速い。
力もある。
体力、持久力も申し分なし。
ついでに手先も器用、頭の回転も悪くないようだ。

「金の髪に碧の目か。忍びにするには派手な見てくれだが、それなりに使い道はあるだろう」
「そうですか。あなたがそう言うのなら安心です、オズマ」

屋敷の裏門をくぐるなり、ミハエルは見知らぬ男と話す矢三郎に遭遇した。
客人かとミハエルが慌てて脇に控えるのに、黒尽くめの装束をまとった男は鋭い眼光でミハエルを眺めまわす。
強面の男の前で小さくなるミハエルに、矢三郎はふっと笑った。

「ミシェル、そう怯えるものではありません。こちらはオズマ、早乙女の一族に仕える忍びの頭領です」
「し、しのび?」
「おや、忍びを知りませんか。まあ要するに、体を張って主に仕える者のことですよ。特にオズマは武芸の達人です」
「・・・武芸、の?」

そう聞くなりミハエルの目が輝いたのを、矢三郎は見逃さなかった。
自分の力で主に仕える。
それは、今現在早乙女の比護に甘んじるしかないミハエルにとっては、なんとも魅力的な言葉だろう。
屋敷の小間使い、アルトの遊び相手であるミハエルだが、ただそれだけで終わらせるにはいくらか惜しいものがあると、矢三郎は人知れずオズマに連絡をとっていたのだ。

「どうです、ミシェル。お前も強くなり、お前の腕でアルトさんを守りたくはありませんか」
「・・・アルトを守る、って・・・」
「そう、忍びは武芸だけでない、彼らしか知らない術や知恵を持つものです。身分こそありませんが、時に侍よりも主のお役に立つ者ですよ」

自らも侍の身の上で、矢三郎は平然とそんなことを言う。
ミハエルは驚いて目を見開き、矢三郎の言葉を反芻していた。

(・・・侍よりも、役に立つ?)

ミハエルは侍にはなれない。
それは異人だからというだけではない、厳然たる身分秩序がこの国にはあるのだ。
侍ではないから刀で戦うことは出来ない、もし仮にアルトの身が危うくなったとして・・・例えば、以前ケガをさせた時のような・・・、ミハエルにはアルトを守る術はないのだ。

(・・・忍びになれば、俺も強くなれるのか?)

その時ミハエルの胸に湧いたもの、それは紛れもない純粋な喜びだ。
そして矢三郎は、ミハエルのその目の輝きを見逃さなかった。


**********


「いやだ兄様、ミシェルをどこへもやらないで!」

ミハエルの望みは矢三郎の予想のうちでも、小さなお姫様の抵抗は予想外だった。
ちょっとどころの駄々ではない、泣く、わめく、普段は聞き分けのいい小さな姫君のありったけの反抗に、さすがの矢三郎も胸が痛んだ。

「意地悪で申しているのではないですよ、アルトさん。ミシェルにもきちんとしたお役目をさせるためには、余所での修行が必要なのです」
「いらない、そんなの!ミシェルはここで、アルトと一緒にいればいいの!」

兄様のいじわる、と泣き出したアルトの前でひたすら困り顔の矢三郎に、座敷の入り口に控えたオズマはうつむいて肩を震わせていた。
嵐蔵の懐刀とも言われた切れ者が小さなお姫様にやりこめられている姿は、笑える以外の何ものでもない。
さてどうなるかと、まるで他人事の気分で事態を眺めていたオズマだったが、場を治めたのは案外に、それまで静かに微笑んでいた美与だった。

「静かになさい、アルト。まずはミシェルの言うことを聞いてみなくては」

そうでしょうと諭されて、アルトは恥ずかしそうにうつむいた。
そんなアルトをじいっと見つめるミハエルに、美与は続いて声をかける。

「事は本人が決めなくてはね。ミシェル、あなたはどうしたいの」

優しく問われ、ミハエルはゆっくりと顔を上げた。
話があると座敷に呼び出され、そこに居並ぶ美与とオズマ、そして珍しく揉めていたアルトと矢三郎を見た瞬間に、ミハエルの心は決まっていたのだ。

「はい、美与様。俺はご恩を返したい。この屋敷に拾われたご恩に報いるためなら、何でもする。忍びになることが早乙女の役に立つのなら、どんな修行にだって行く」

断固たる口調のミハエルに、美与は微笑み、アルトは瞳を潤ませた。
ミハエルはアルトに向かって座り直し、畳に手をついて頭を下げる。

「ごめんアルト、行かせてほしい。俺は、アルトを守れるだけの男になりたいんだ」

強くなりたい。
男としての本能的なその願望より、ミハエルには、『アルトを守りたい』という気持ちのほうが強かった。
本来であれば藩主唯一の男児として城で皆にかしずかれているはずのアルトが、男であることを隠し、人里離れた屋敷でひっそりと暮らしているのだ。
それを不自然だと思わないほどには、ミハエルは鈍くはなかった。

(アルトの身の上には、きっと何か事情があるんだ。なら俺は、そんなアルトを守ってやりたい)

この国で初めて見つけた、ミハエルの宝物。
アルトを守るためならば、どんな辛いことにも耐えよう。
それがたとえアルトを泣かせることであっても―・・・と、ミハエルが幼いなりの覚悟を決めたというのに。

「・・・やだ。ミシェルがいなくなるの、やだあ」
「ア・・・アルト・・・」
「ミシェルはいいの?ミシェルは、アルトと離れても平気?」
「へ、平気じゃない!平気なわけないじゃないか、そんなの・・・!」

幼い2人のとんだ愁嘆場に、美与は笑い、矢三郎は肩を落とし、そして端で見ていたオズマは呆れまじりのため息をついた。

「やれやれ、熱烈なこった。仕方ねえな、それじゃあこの俺が特別に粋な計らいをしてやろう」

仮にも主君の姫君様を泣かせるわけにはいかないと、オズマはとある提案をする。

「本来なら言語道断だがな、どうせこいつのこの見てくれじゃ、まともな忍びにはなれねえ。たまにはこのお屋敷に戻って姫様のお相手をするくらい構わねえさ、それもこの小僧の立派なお役目らしいしな」

それでいいかと促すオズマに、泣きはらした目のアルトはミハエルにしがみついたまま、しぶしぶ「うん」と小さく頷く。
こうしてミハエルは、早乙女の屋敷を出ることになったのだった。


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